28: 飛べない鶯は都へ落ちる

10年前の22才、わたしが大学を卒業して春から勤めはじめたのは「自宅」でした. 毎週月曜日に刊行される求人情報誌をスーパーへもらいにいき、求人を探すものの応募に至らず「今日も応募先見つからなかった」とさまざまなことを先送りにする日々. 「やりがい…

27: "海と果実と"

香坂優美子と月島カンナ 入江耕作と佐野朝美 榊晃司と水野紘子 結城櫂と萩尾沙絵 この名前たちで「あ、」と思った人はきっと同じ物語をブラウン管から眺めたことがあるのだろう. 脚本家を知らないまま一話目をみて、二話目をみて続きが気になって仕方なくな…

26: 一の矢二の矢とんで四の矢

比丘たちよ まだわたしの教法を聞かないひとたちは、苦受にふれられると 憂え、疲れ、悲しみ、胸を搏って泣き、なすところを知らず 彼らは二種の受を感ずる 見に属する受と、心に属する受である 比丘たちよ たとえば、第一の矢をもって射られども、さらに第…

25: deadline of emotions

今も抱き続ける 胸の傷み 想い出が香るこの場所から 誰もない向かいの席 いつまでも 僕は独りで あなたを待ち続けてる -アンジュナ / The Gospellers 2年以上の時が過ぎようとしているこの着信履歴を消せないのは、年月とともに薄れていく"想い出の残り香"…

24: 梅の花は零れて

わたしは大きなくくりの中でいうとサービス業に従事しています.どの職業に従事していても人間関係というものはつきもので、人と人が一つの会社という屋根の下で生活をしているわけですから、喜びあれば悲しみや怒りも常にあるものです. "会社のため"と働きま…

23: 汝、水鏡に映れば

6月5日 反芻する形の定まらない考えたちが、雨季へ入る前の狂わせるような汗ばむ陽気と相まって息を苦しくさせています. 突然降ってきた雨に傘をさすのも忘れ...忘れるというよりは持っている折り畳み傘を取り出すのも面倒になってしまって、手持ち無沙汰と…

22: この森をぬけたら、どうかわたしのことは忘れてください

もしかしたら、わたしはだいぶ世間一般の枠組みからはずれているところで息をしているのかもしれない. と数年前より肉体的に疲れやすくなった体と相反するような、まだしわのたりない頭の中をみあってそう感じることが多くなりました. 街角ですれ違う人々の…

21: 76173

わたしにとって久しぶりの"学校"ともいえる教習所. 運転免許証を手にした今こそ二か月弱と言葉にしてみればとても短いもので、幾ばくかさみしいきもちもあるというのがホンネです. "教習所物語"をここで綴ろうとも思ったのですが、あえてその物語を語ったあ…

20: 後ろから三番目の背中

少し肌寒い体育館に響き渡る校長先生のおはなし、大半の生徒はもう目の前にある春休みに心奪われうわの空で、目の前の友達の少し浮ついた背中をぼうっと視界に収めながら聞き流されていくことでしょう. わたしは身長が幼い頃から高いほうだったので、背の順…

19: Catch me if you can.

去年の暮くらいからでしょうか、いや、もしかするともっと前からかもその気配を感じていたのかもしれません. 集団の中にいるときのわたしと、ひとりでいるときのわたし、同一人物でありながら"不同一人物"ではないか、と. これは俗にいう二重人格だとか、猫…

18: み・む・ふ・ひ

未完成のまま書くのをやめてしまったラヴレターたち. 無関心なふりをしているけれど、こころの片隅で気づかれないようハアトに火をくべて. 不器用なわたしでも、この赤い糸を手繰り寄せていけばあなたに届くかしら、なんて. 非日常のはじまりを日常の中から…

17: Lost in Last Page

重い雲の瞼から伝い落ちた泪の雨で濡れた翌日、吹く風が纏ったのは花のセーター. 十二月は数か月先で目覚めを待つ四月の寝息を、少しだけ、そっと運んできたような日があるかと思えば、草木に霜化粧を施して歩く日もありました. 十一月の内にいくつか頭に浮…

16: 冷めゆく38.1度

何年前の秋から冬への過渡期だったでしょうか. その当時もインフルエンザ、風邪が流行っていてすれ違う人が皆、風邪をひいてしまってマスクをしている人か、風邪にならないように予防でマスクをしている人か見分けがつかないような顔ぶれ. 例年に比べ気温が…

15: 4-04-791397-9

レストランのホール、新聞配達、家庭教師、引っ越し屋さん. 母からのお小遣いやお年玉をやりくりしてほしいものを買っていた子供は、働くことを覚え、自らの労働を対価に"お給料"という通貨を手に入れ、今までお小遣いをくれていた母へ初任給でおいしいもの…

14: おむすびとはちまき

手縫いの赤色はちまき、白と青の体操着と上履きには大きく名前がかかれ、赤いランドセルのかわりに背中にしょったのは臙脂色のリュックサック. 自分の顔と同じくらいの大きさの水筒をもって歩く、いつもと変わらない通学路は、どこか違ってみえた朝. 開会式…

13: 水-面-鏡

雨上がりのアスファルトの上に残された水たまりに、真っ青な空が映し出される矛盾の美しさ.というとこそばゆく思えて、でも、その水面を揺らずに歩くと、本当にそこからどこか別の世界へ繋がっているんじゃないかと思えるほど、ありのままを映し出してくれま…

12: Dagli Appennini alle Ande

家つむりだったわたしが、気づけば海辺に誘われ、次の家を探しながらやどかりになっていた. まだ見ぬ"ナニカ"を探して、歩くようになった、そんなお話. "お休みの日は何をしているのか"というありきたりな問いに答えるとして、おそらく三年前のわたしは"家で…

11: 時計うさぎとかめアリス

ニュースから繰り返し流される台風の被害状況、死者数、今後の進路予想. それが報道され終ると、今度は芸能ニュースへかわり、さっきまで深刻そうな顔だったニュースキャスターの顔が一転して笑顔に変わる. 目まぐるしくかわる世界情勢、といえるのは現代の…

10: 旅がらすの泡沫ドライヴ

2016年8月6日(土)-8月8日(月) 東京-滋賀-京都-兵庫 みじかいみじかい旅に出かけました. 出会いは小さな窓でした. わたしを含めたこの四人は、誰も正確にいつ頃からお互いを知りあったか、というのはあまり覚えていないと思います. 年齢も住まいもばらばらで…

09: xiězhēn

もう7月の後半というのに、まだ梅雨明けしていない空模様. 7月17日の日曜日に、世田谷美術館で開かれている"アルバレス・ブラボ写真展―メキシコ、静かなる光と時"を鑑賞してきました. アルバレス・ブラボ Manuel Álvarez Bravo (1902-2002) ―革命の動乱を経…

08:VIVA LA "White" WOMBAT

白い壁の、白い時計. 時の経過を知らせる秒針よりも、時計盤を囲む白い枠が少しずつ傷み始めていることのほうが、時を語っているように思える夏の明るい夜. いつこの時計を手にしたのかは覚えていませんが、確かフリーマーケットでダンボール箱に乱雑に他の…

07: かなかなの かなかな さそう 谷浄土

6月19日の日曜日、高校時代の同級生と八王子にある高尾山へ登山をしてきました. 年4回、春の会、夏の会、秋の会、冬の会と称して集まっては、お互いの近況などを話し合って、高校生の頃を懐かしんだり、あの同級生は今どうしているだろう、と他愛のない話を…

06: 朝顔の花のうへの露

"いつもそこにある風景"というのは、写真の中だけの話なのでしょうか. 同じ窓からみる風景でも、その日の天気や風の入り方、気分でまったく違う顔をみせます. 誰しもが"思い出の場所"だとか"いつもの景色"といった一枚絵を、胸の内に飾っていると思います. …

05:Blue Bug living in eyes

昨日の仕事からの帰り道、制服に身を包んだ女の子、高校生でしょうか. バスから降りた後ろ姿を自転車で追い越していく、その一瞬. 彼女の目から流れる水色の線がみえました. 泣き虫の虫をわたしは飼っています. 痛い注射やすり傷に泣く子ではありませんでし…

04:夢我、夢中

夢の中での出来事を思い出すこと、またその内容を覚えておき続けることは"夢と現実の区別がつきにくくなる"といわれています. 明晰夢(めいせきむ)をみるために、というわけではありませんが、よく既視感(いわゆるデジャヴュ)を体感するため、おのずとそ…

03:ぱんのみみ

ここ数年、"ぱんをたべたい"と思うことが昔よりも多くなりました. 一口に"ぱん"いっても、ぱんはぱんでもたべられるぱんはたくさんあります. 特にわたしが好きなぱん、というのはこっぺぱんとサンドイッチのふたつをさしますが、みなさんはどうなのでしょう…

02:26型と27型

簡潔にいえば、9年間一緒に走った自転車が直せないほど壊れてしまって、新しい自転車をつい先日迎え入れた.という話です. 高校入学式の迫った2月頃だったでしょうか、母に連れられてやってきた町の自転車屋さん. "高校生になるんだから、新しい生活には新し…

01:よーい、どん

はじまりはいつも突然で、"よーい"を忘れて、"どん"からはじまりました. 誰かに後ろからバトンを渡されたわけでも、これから渡す相手がいるわけでもありません. さらにいえば渡す相手もいなければ、トルソーで切られるゴールテープもありません. でも、はじ…